写真集 日本の写真家

このページでは日本の写真家の写真集を紹介しています。写真集は書店でも立ち読み出来る機会が少なく、また写真集を豊富に揃えている書店も限られています。そして写真集がこれまたいいお値段するんですね。もともと発行部数が一般の書籍に比べて少なめであることもあり、人気作家の人気写真集ともなるとネット上で高価な取引になります。見たいと思っても参考になるのは書店の数行のレビューであったり、あとはジャケ買いだったりしますよね。

写真集に対してそういう不便さを感じることもあり、自分がいいなと感じた写真集についてここで稚拙ながらレビューを掲載しています。いい写真集を探している人、これ欲しかったけどどうなんだろうと迷っている人に何か参考になりましたら幸いです。


写真集 写真私情主義 荒木経惟

写真私情主義 

荒木経惟

26.5cm × 19cm 

 

このページをご覧になる方はきっとご存知でしょう、アラーキーこと荒木経惟(以下 アラーキー)。誰しも彼の写真を一度は目にしたことがあるはずです。日本はもとより、世界の写真界のトップを走り続ける写真家。今まで刊行された彼の写真集は膨大な数に上り、一体何枚の写真を撮ってきたのでしょうね。彼以上に写真を撮る写真家もないのではないでしょうか。そう思わせるほどに精力的に写真を撮り続けています。

 

アラーキーの写真集の全てを網羅しているわけではないので誠に僭越ですが、写真私情主義は彼の作品群の中でも間違いない傑作の一つであると言わせて下さい。この写真集に納められた写真は

  • 1986年〜2000年の間にプラウベルマキナ67撮影した
  • 全てアラーキー本人がプリント
  • およそブローニー5,000本、50,000カットからセレクト
  • 年代順に並べた
  • 自身の還暦祝いに

以上、あとがきより。

ほとんどのページが見開き1点で構成されて全201点。フィルムはコダックT-MAXでしょう、一部フィルム名が写り込んだプリントがあります。なかなかのページ数でズシッと重さがあります。アラーキーの代名詞とも言えるヌード写真はじめ、若かりし頃のビート武の写真など著名人の写真も数枚入っています。東京の風景はあまり見受けられません。しかし他の写真集との大きな違いは、陽子さん、チロちゃん、バルコニーの写真が割とたくさん入っているところだと思います。後者の作品群が好きな方には堪らないでしょう、私もその一人です。アラーキーの写真集では、“センチメンタルな旅 冬の旅”を外せません。そしてこの写真私情主義も同じ強さでオススメしたい。

 


写真集 鴉 深瀬昌久

深瀬昌久 

ハードカバー

26.3cm × 26.5cm 148項 62photo

 

オリジナルは1986年蒼穹舎から刊行された『鴉』ですが、ロンドンの出版社Mack社による復刻版です。ケース付き、クロス装、表紙にカラスのエンボス加工入り、立派な写真集です。オリジナルは滅多と手に入らないし高価なプレミアムがついているので、復刻されて良かったと思います。海外ではこの写真集の人気はとても高いと思われます。

 

深瀬昌久氏は多数強烈な作品が発表されておりますが、この鴉が代表作と言われています。北海道の写真館の家に生まれ、上京して広告写真家となります。仕事の合間に作品を撮影し続ける内に、写真作家として台頭していきます。世に語られる彼の苦悩と凄絶な最期は、まるで昔年の文豪のような写真家であったと感じます。

 

ドライブインのごみ箱をのぞき込む烏は、2メートルぐらいに近づいても平気で、カメラを恐れない。不思議そうにレンズを見てはカーと鳴く。ぼくはカメラを持った烏になって、濃い霧の中を高く低く見え隠れする黒い友達を追って遊んでいた』※本書解説より抜粋

 

タイトルの通りカラスを主要被写体とした写真群ですが、いわゆる動物写真集ではありません。主には日暮れや夜明けのカラスの活動時間を狙って、金沢、北海道の道程でカラスを追っています。その執着というか執念たるや凄まじいものが感じられ、読み進むほどに圧倒されます。これほどまで写真に思念のようなものが写り込むものなのかと感嘆せずにいられません。美しい写真集は数多くあります、しかし本作ほど写真に重力を感じられるものは滅多とないでしょう。日本の写真集のマスターピースであることは疑いようがありません。作家的写真集がお好きな方は必見です。

 


FUJII FILMS 藤井保

 FUJII FILMS − 藤井保の仕事と周辺  ペーパーバック

24.6cm × 18.4 cm 106項 

 

広告写真家 藤井保氏の解説本。今まで携わった主な仕事を通して彼の写真についての考え方や当時の思いなどを、ご本人の言葉で語られています。もちろん写真も多数掲載されていて、さらには使用機材も明かされているので非常に勉強になる一冊です。商業写真家にとってまさにバイブルと言えます。

藤井保氏は広告写真家ということもあり、一般的な写真好きという方にはあまり認知されていないかも知れません。しかし彼の撮影した広告は、一度は何かしら目にしたことがあると思います。有名なところではJRやサントリーの広告撮影に関わっておられました。女優の江角マキコさんの写真集も出版されています。彼の写真には独特の優しい空気感があると思います。広告なのに作り物とは思えないような、臨場感や生々しさとはまた違ったリアリティというか、いわゆるシズル感に溢れています。

 

これからフォトグラファーを目指すと言う方はもちろん、広告写真に興味がある方にはぜひ読んで欲しいと思います。

 


ADIEU A X - 中平卓馬河出書房 ハードカバー

29.8cm × 21.6cm 120項 82photo

 

写真家 中平卓馬、写真家と自負する方ならこの名前を知らないことはないでしょう。惜しくも2015年に鬼籍に入りましたが、未だに中平卓馬の写真論の影響は多くの方々に残っているのではないでしょうか。雑誌『現代の目』の編集者を経て、アメリカの写真家ウィリアム・クラインの写真に影響を受け、アレ ブレ ボケと称される撮影手法によるスナップ写真で、当時の写真界の常識を打ち破りました。

また多木浩二、森山大道らとともに写真家同人誌プロヴォークに参加。安保闘争から高度成長期へと向かう激動の時代に写真表現を通して、見ること、また撮影という行為そのもの、写真表現の本質を追求し続けます。1977年不慮の事故により記憶の大半を無くし、表の舞台から遠ざかりはしましたが写真は続けていきます。

 

本書は1989年初版の写真集の復刻増版です。記憶を失う前の段階で、アレ ブレ ボケといった手法から離れて撮影者の意思を可能な限り排除しようと試みていた、その名残が見て取れます。それらのハイコントラストのプリント一枚いちまいに、ただならぬ凄まじいエネルギーを感じます。著者あとがきにありますが、この写真集が最後になると思いタイトルは付けられたそうです。実際オリジナルの写真集という意味においては、この写真集が最後となります。

 

この写真集によって、写真というものが先の領域に達したと言えると思います。少なくともぼくはスナップ写真群的な写真集を見るたびに、失礼ながら『ADIEU A X』を思い浮かべてしまう。もちろん単純に比較できることではありません。ただそれぐらい自分にとっては初めて見たときに、強烈なインパクトがあったのですね。見開きページに草むらの野良犬がこっちを見ている写真(文章で説明するとどうも...失礼)があるのですが、その一枚は初見からずっと頭に焼き付いて忘れられませんでした。ようやく再開に至り落ち着きました次第です。本書はおすすめどころか、必読の写真集と言えます。

 


日本の写真家〈1〉上野彦馬と幕末の写真家たちハードカバー 22.2cm × 22.2cm

 

岩波書店の日本の写真家シリーズ第1巻です。まさに幕末から明治初期に活躍した、日本の写真家のはしりの方たちの残した写真が収められています。

主には当時の肖像写真です。おそらく現存しているものも少ないでしょうから、資料的にも何だか必要な感じがしますね。

 

写真家というか写真師というか、日本における写真の幕開けを担った方たちの写真は写真どうこうというより、武士が写っているとかその辺りに面白さを感じます。うわ刀持ってるとか、と言っても髪型や格好は置いておいてやっぱり同じ日本人なわけで。とりわけ鮎を撮ってるのとかが残っているということに、写真というものの力を強く感じました。

 

数えれば200年弱の時を経ても写真が残っているということへの感動、カメラはそれを持つ人にに撮りたいという欲求を起こさせるということの証拠として、これはいい写真集だと思います。

 

写真はそもそも海を渡って伝えられたものだから、当時からすでに肖像写真のフォーマットのようなものは完成されていたというのは想像に難くありません。古風な感じは今見ると滑稽にも見えますが、カメラの前に立つ人間の発するストレートなパワーは、やはり写真家にとって時代を超え得る魅力的なテーマだと思います。

 

 


PERSONA 鬼海弘雄

ハードカバー A3変型

 

この写真集を初めて見たときに受けたインパクトが大きすぎた。以来ことあるごとに思い浮かべてしまうという始末で、ようやく手に入れた写真集です。もっぱらポートレート写真なのですが、分量、内容、写真のクオリティ全て充実した名作と言える写真集です。何よりすんげーおもしろい。

 

 鬼海弘雄さんのPERSONAは、東京浅草の浅草寺を舞台に撮影されたポートレート写真集です。被写体は何せ独特な人が多くて、極めつけに鬼海弘雄さんのつけるキャプションが写真に抜群にマッチし、写真の魅力を十二分に発揮している。写真とキャプションの相関関係が重要であることを改めて気づかせられます。

 

写真とはキャプションによって見方が変わることもあるし、キャプションがなければよくわからない写真もある。そしてこの写真集のようにキャプションによって写真をより引き立てることも出来るということが、本書ではよく分かります。

 

何十年と同じ場所で変わらぬ眼差しでたくさんの人を撮り続けること、それが容易ではないことは想像に難くないでしょう。実際にどのように声を掛けて撮影を行っているのかはわかりませんが、写真を見る限り被写体となる人がよく表れていて、ポートレート写真にありがちな撮ってる感とか撮られてる感が感じられない、希有なポートレート写真集であると思います。

 

普段は他人に見せない内面の、ちょっと柔らかい繊細な部分が、つまり被写体の心が開いている感じがする。鬼海弘雄さんは本当に深いところを見ているなぁと、そしてよくそれ写真に写すなぁと。一流の写真家に対して失礼ですが、上手に人を撮るもんだと感服しまくりです。

 

この写真集は普及版が手に入り易いのですが、実プリントサイズで迫力あるオリジナルの判型でご覧になられることを強くおすすめします。

 

 

 


目のまえのつづき - 大橋 仁

ハードカバー

18.7cm × 25.7cm

 

とにかくすごい写真集。自分の生活を中心として日常、彼女、セックス、そして父親の自殺未遂などが収められた写真集です。これらの写真をほんとうまく並べている、不快とか嫌悪など全く起こさずに読み進んでしまえる。揺さぶられる。デザインによるところももちろん、人間という生き物の生と死、関係性、それら確かなようで不確かなものを自分という存在の位置から掴みに行こうとしているような、そういうテーマのもとに編まれていることにもよると思います。たとえ自らが考えなくても、人間はその生きていることと死ぬことと、無視するわけにはいかない。

 

彼のようにそれを見てしまった、感じてしまった写真家は、もう写真以外に語ることは出来なくなるのだろう。ここには言葉では説明出来ないものが写っていると思う。写真集の帯に書かれている荒木経惟の一言『凄絶ナリ。』が正にこの写真集を表しています。すごい。

 


生きている - 佐内 正史

 

ソフトカバー

315mm × 281mm 66photo 

 

 

人気写真家、佐内 正史のデビュー作。おおよそごく何気ない日常の風景たちが納められている。それらの特別ではない写真を淡々と、しかし嫌味のないリズムでページは進んで行くのが不思議に感じられます。何の意図があるのかを探るよりも、佐内さんの視線をそのまま追うような展開にタイトルである"生きている"とはこんな感じなのかもと思ってしまいます。

 

正直なところこの写真集の本意はほとんど理解出来ていませんが、どうしても影響されている部分がある。なぜ何の変哲もない写真で、ここまでの作品性を発揮出来るのかという疑問を抱きながら毎回読んでしまいます。ただ分かるのはここにあることに、うそやてらいのようなものはないなということ。独特に色を転がしている写真はあるけれど、その無味無臭、無垢さを感じずにはいられない。そして至極男性的、もっと言うと男の子的な写真が知らず知らずと、胸の内に入り込んで来ているのかもしれません。

 

 

 


感動 - 斉藤陽道

ソフトカバー

28.8cm×22cm 140項 

121photo

 

写真を撮る人なら日常カメラを持って歩いていると撮るであろう、おおよそのものが収められている。人、犬、猫、鳥、風景などなど。にもかかわらず決して陳腐な写真集ではない。センスがいい。もっと言うと、“いい眼”を持ってるというのかな。

一枚いちまいを見ると何気ないスナップ写真や知人を撮ったポートレートと言えるのかも知れない。しかしこの写真集を一冊通して見たら、生きるものの内から発せられているエネルギーを確かに感じる事が出来ると思う。いや、生きるものは内からエネルギーを発しているということが分かる写真集である、という方が正しいかも。

 

斎藤陽道くんの感動を初めて読んだ時、何だかわなわなするものがあった。ここからは恥を承知であえて語ると、写っているものを見ると何だか自分が普段撮ってるものに似ている気がした。見ているもの、見方が似ているのかも知れない。まぁこれは自分の主観であって勘違いはなはだしく、きっと斉藤くんがそれくらいの普遍性ある作品を撮っているからに他ならないのだけれど。

ぼくらの世代で写真家を目指す方たちの多くはおそらく、佐内正史さん、川内倫子さん辺りの影響は強く受けている(少なくとも自分にはそういう傾向があることを認めます)んじゃないかと思いますが、斉藤陽道くんにおいてようやく、その影響を進化させて新しい形を成したような気がしました。

 

日常に出会う人、動物、水、緑、空、光と言葉になるし写真にだって撮れるのだけれど、それらを丁寧に紡いで‘生きている’ということのよろこびを、本作は押し付けがましさなく伝えてくれているという気がします。

 


鳥を見る―野口里佳作品集ハードカバー

25.7cm×24.4cm 108項

29photo

 

潜る人・鳥を見る・フジヤマの三作から構成されています。

地球の、それも日本で撮影されたものとは思えない、まるでどこかの小惑星にちょっと旅行したときに撮ったものをまとめました、というような感じがします。全体的にやや遠目な独特の距離感とフラットな空気感が新鮮で、本自体もそのプリントも丁寧です。

特に衝撃的とか美しいとかそういうのではないけれど、何度も読み返してしまう写真集です。

 

 


蒼井優 写真集 『 A DREAM 』 (写真:上田義彦)

 

上製本 カバー付き

21.2cm × 20.2cm 174項

92photo 

 

 

女優の蒼井 優を上田 義彦さんが撮り下ろし。女優さん写真集にありがちなセクシーカットやきわどいショットとかそういうのは一切なし。そもそも、そういうのを期待されるような女優さんではないけれど。

 

ぼくの中では上田さんといえばコマーシャルフォトというイメージが強かったので、こういうテーマの写真集で彼の写真を見るのは新鮮です。ポートレートとかタレントを撮ったとかそういう感じはなくて、そこにある空気というのか2人がそれぞれ持っている空気というのか、写真集とそれを見ているぼくの間には正に、空気の層のようなものがある。

 

人を撮るとすると大体が、こういう風に撮ろうとかこういう表情を狙おうとか、そういった撮り手や作り手の見せ方とか解釈が入りがちで、それが作風だったり作品たり得る所以なのもあるけれど、この上田さんは気負いとか視線とかいうものを感じさせない。そこにある空気に同化しているような、そこで撮ったのだろうにそこに居ることをこちらに気遣わせない。その精妙な距離感よ。

 

 


HOPE 空、青くなるーハービー・山口

 ペーパーバック

25.8cm×24.2cm 120項 125photo

 

写真を撮る目的を一言で表すなら、

それは、人々のこころをポジティブにすることだ。

その結果、人々のこころが希望に溢れ、安らぎを取り戻せたらこの社会はもっと優しくなるのではないか... (序文より)

 

 

言葉通り、心暖まる写真がいっぱい載っています。

何度か作者の講演を拝聴したことがありますが、優しい見た目と裏腹に結構ワイルドに生きて来られたエピソードがたくさんあるようです。もちろん、写真のためにですが。

ライカ使いとしても有名、プリントがめちゃくちゃ上手い。

写真が好きで、何より見るものを幸せにしたいという気持ちがそのまま彼の作品に表れています。今の時代に於いて、希有な写真家だと思います。

 


Jimdo